一級建築士の製図試験が、もう目の前ですね。
学科試験に受かった人は、今必死の思いで演習を続けていることだと思います。僕が受かったのは既に20年以上前で、その頃とは法規なども大きく変わっていますので、具体的な攻略などは、特に製図についてはコメントしても役に立たないと思います。
ただ、後輩達が取り組んでいる課題を見て、その感想を聞いたりしていると、「ああ、基本的な考え方は同じなんだなあ」と思います。
そして、合格した人、残念だった人の話を聞く度、傾向があるなあというのも実感しています。今日はそれについて書いてみますね。一応先に断っておきますと、これば僕が統計を取ったわけでも何でもありませんので、絶対正解と言うわけではありません。特に膨大なデータを持っている受験予備校さんの見解が正しい場合が多いと思いますので、雑談程度に聞いてみて下さい。
1,試験の製図はこだわりを捨てよう
この仕事をしていると、仕事について自分なりのスタイルを決めている人が多いと思います。施工図面の書き方についても、通り芯を引いてからミスをなくすために躯体の配置の順番とか、仕上げの書き方とか。2DベースとBIMベースでも、根本的に書き方が違い、それぞれの癖があると思います。net上の意見などを見ても、なんか我流のこだわりを書き込んでいる人がいるように思います。
例を挙げれば、「柱形は綺麗に直角に書くんだ」とか「寸法線は綺麗に出すんだ」とか「柱と壁は線で区切らないんだ」とか「文字は活字のように綺麗に書くんだ」とか。
しかし、試験は別物と考えて下さい。普段書いている仕事での図面のこだわりなど、全く必要ありません。要求されるのは時間内に必要な情報を時間内に書き込むこと。これだけです。学校に行っている人はそのノウハウを教えてくれると思いますが、それに反発し「俺はこう書くんだ!」と意地を張っても何も実りません。そのやり方が自分に合わず、どうしても能率が悪いなら別ですが、多くの人が成功している「書き方」に乗っかる方が「試験製図」を攻略する早道です。
合格してしまえば、もう二度と平行定規や三角定規など触ることはありません。(僕も合格したら速攻でヤフオクで売ってしまいました)合格してから30年近く経った僕が断言します。試験に関係する職業を除いて、これらの道具とは全く無縁になります。
割り切って受験テクニックに特化し、こだわりを捨てて早く、正確に、必要な情報を、盛り込む事に専念する事、いわば製図マシーンになることが合格に必要ですね。
2,出題者の間違わせる意図を読み取る
さて、手の方が法則に忠実に動いてくれるマシーンになったところで、脳を使うエスキース面の方はどうでしょうか。これは全く逆で、邪悪なひねくれ者になる必要があります。
まず、出題者の方の立場で考えてみましょう。
相手は過去問題を研究し尽くし、必死で製図の勉強をしてきた受験生です。しかし、その猛者達を「ほぼ50%」を不合格にするのが彼ら出題者の役目です。これは正直「至難の業」となってきます。難易度を上げて合格率10%にしたり、逆に下げて90%にする方が全然楽だと思います。
ちなみに、今年(2022年)の製図課題を見てみると、建物課題は事務所。そしてこんな付帯条件がついていました。
「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に規定する「建築物移動等円滑化基準」を満たす計画とする。
610行にも及ぶ法律ですね。また
敷地の周辺環境に配慮して計画する。バリアフリー、省エネルギー、二酸化炭素排出量削減、セキュリティ等に配慮して計画する。各要求室を適切にゾーニングし、明快な動線計画とする。建築物全体が、構造耐力上、安全であるとともに、経済性に配慮して計画する。
とも。
省エネやCO2削減、セキュリティまで踏み込んでいますね。
このような付帯条件で「法令集読んでいるだけでは駄目よ」って、考えさせる布石を打っているのです。これについてしっかり予習し、演習に盛り込む事が必要とされています。このように、人間は考える事が多いとシンプルに考えたくなり、優先順位が狂います。
試験製図の第一条件は、「課題の要求する条件を過不足無く満たす」ことにあります。どんなにバリアフリーに合致していても、どんなにCO2削減出来ても、主要な課題条件を満たしていない場合は減点が大きくなり、不合格です。付帯条件を無視してはいけないですが、優先順位を間違えてはいけません。出題者は知恵を絞って半分の受験者に「迷わせて、ぼろを出させる」ことを企図しているのです。
問題や事前課題をストレートに受け止めるのでは無く、出題者の問題作成の意図を読み取って、知恵比べに勝つ。このような捉え方をしていれば、トラップを見破る事は難しくないと思います。
3,練習から時間内に納める事を意識する
普通の建物の計画を、あの試験時間で考え、プランニングすることは絶対にありません。それは絶対に不可能。まずこの前提を押さえて下さい。
その、「あり得ない」建物計画をすることが、製図の課題です。そして
どんなに図面が汚くとも、書き切った人に合格の確率があります。
どんなにプランが拙くとも、書き切った人に合格の確率があります。
まず、その厳然たる事実を捉えましょう。
であれば、最初から時間を意識して練習することの大切さが解ると思います。知識がついていけばいくほど、エスキースには時間がかかるようになります。書けば書くほど、図面の完成度にこだわりが出てきてしまいます。練習時に時間を意識してさえすれば、自分でそれをコントロールできるようになります。漫然と何時間もかけて行う練習は、自分を合格から遠ざけていることを自覚し、「時間内に納めるテクニック」を磨くことを忘れないで下さい。
合格するには理由がある
今までたくさん後輩で合格する人、そうでない人を見て来ました。
冗談ながら話を聞いてみるとやはり一発で合格する人は、正しい努力を正しい方向にしているなあと感じます。また、そうでない人は、往々にして上記のようなことで、方向性を間違えていたように感じます。
ここで書いたことは、ほんの一端だと思いますし、受験校などでは散々言われていることだなんだろうなと思いますが、僕が見てきた事例をもとに、傾向をまとめてみました。今年受験する人の少しでも助けになったなら、嬉しいですね。