現場あれこれ

作業手順書は万能じゃない

現場で事故が発生したとき、必ず取り沙汰されるのが「リスクアセスメント作業手順書」(以下RA作業手順書)です。現場において、事前にその作業の手順を確認し、一つ一つの工程に伴う危険性と、それに対する対策を具体的に書かれた書。これがRA作業手順書の簡単な説明だと思います。この内容が曖昧だったり、必要な事項が網羅されずに作業を始めた場合、事故が起こる可能性が高くなります。

では、RA作業手順書が整備されれば、事故は起きないのでしょうか。

これは、現場にとって永遠のテーマですが、残念ながら必ずしもそうではありません。なぜなら、作業手順書に書いてあるとおりに、作業員は必ずしも動かず、注意事項も守らないからです。

僕の現場では、作業員、職長さんにこのように指導しています。

1,まず作業に入る前に、作業手順書を職長さんは一読して下さい。

2,その中で、リスクの高い項目を抜き出し、危険予知を行って下さい。

3,その危険に対する対策を、手順書を見て選定し、危険予知シートに記入して下さい。

4,その内容を、朝礼で当日の作業内容とともに、発表して下さい。

実に単純で、わかりやすいですよね。さてこの内容、この通りに出来る職長さんは10人中、何人ぐらいでしょうか。

答えは、半分ちょっとぐらいしか、一発では出来ない。

です。そう、非常に優れた手順書が整備されていても、肝心の職長、作業員がそれを軽視し、まともに読んでいなければ何の意味も無いのです。

さて、最初に戻ってみましょう。事故が起きた場合、必ず言われるのは「作業手順書が整備されているかどうか」で、不備があれば必ずそれが原因だと指摘されます。しかし、上記のように作業手順書が最初から重要視されていなければ、そもそもそれが事故の抑止力にさえならないのです。

大切なのは、その作業に必要な手順、それに基づいた注意事項を、職長と作業員さんが把握し、それを確実に現場に行うことであって、作業手順書はそれを補完するための資料でしかないということです。

しかし、事故が起こった時、どうなるかというと、「事故を起こした作業手順書があるか、ないか」が一番の糾弾される要因になります。そのことに言及することは必要です。しかし、事故が起こった際、

これは手順書が無かったから起きたんだ!

とすぐ結論づけるのは絶対に間違っています。

手順書を整備することは前提で、いかにそれを職長、作業員が深く理解させるか、その課程や内容が最も大切なのに、何故かそこには事故が起こっても言及されません。「かたち」として現場に残っていないからです。

事故を誘発する原因は、集約すると下記になります。

1,人(適切な能力を持つ人間が、その作業の計画・実施に適正な人数携わっていたか)

2,時間(その作業を完結するのに必要な計画時間、実施時間があたえられていたか

3,金(その作業を実施するのに必要な投資(仮設・機械・周辺整備)が投入されていたか

のどれかでしかありません。作業手順書はその1と2、人と時間の準備段階をクリアーしたに過ぎないのです。

作業手順書の内容を熟知したメンバーが集まっていても、十分な仮設が当たられていなかったり、結果を急がされたりすると、必ず必要な手順を「はしょる」ようになります。真の事故の原因は、そこにあるのです。

現場の管理は生ものです。特に現場所長は軽微な事故が起こった際、「人に能力が足りない」と判断したなら「お金をかけて、構成員ができるだけ判断しなくてもいい、判断をゆっくり出来る環境を作る」必要があります。具体的に言えば、

1,工期を延ばしてもらう。伸ばせるような措置を執る(マイルストンを後ろにずらす。

2,仮設を過剰なほど整備して、極力メンテナンスフリーにする

などの措置が必要なのです。

事故の際には、外から人が来て、「あれもしなさい、これもしなさい」と命令する場合が多いですが、大抵それは逆効果で、そういうときこそ「仕事を減らす」努力をすることが現場の幹部の役割です。

私たちの職業が選択の「間違い」を起こすと人の命に直結します。決してそこを間違えないようにしていきたいですね。

あ、あと何故事故の後、RA作業手順書の存在ばかりが指摘されるのかですが、それは「因果関係」と「相関関係」の混同が根底にあるのですが、それはまた別の稿で話したいと思います。