現場あれこれ

構造計算と構造設計の違い。

この話題をする前に、まずは自分がやらかした話を。

先日のツイッター。ある方へのレスをしたときに、小規模建築の耐震等級1の考え方について、建築基準法を「引用」するような体で、「耐震等級1は きわめてまれに発生する大地震による力に対して倒壊、崩壊しない程度の耐力があるのですから」のような事を書いちゃったんですね。

勿論間違いで、「耐力がある」などと保証されたわけではありません。必要条件と十分条件の違いをわからずなんとなく書いたために、すかさず「一級建築士を持っていてそんな事もわかってないのですか?」と突っ込まれてしまいました。

いやあ反省反省。。。その通りですよね。そのように言われているだけで、決してその性能が保証されたわけではないんです。

住宅は簡略検討が認められている実態

住宅等における設計では、ある一定の規模以下の場合は、規定の壁量などを確保すれば、構造計算なしで建てることができます。詳しい解説は、それらの専門サイトに譲るとして、僕はその規定はある一定の意味はあるのでは?とは思っています。欧米と違い、スクラップ&ビルドが基本の日本の住宅建築では、全部の建物に構造計算詳細検討を課すことは、社会的に見て重く、どこかに簡略化した基準が必要とされ、その延長線上に現状の規定があるのだろうなと。実際、この法律を改正する動きがあり、一度は全ての建物が構造計算するように変更させられかけて、様々な意見徴収の末、結局元に戻った経緯もあるみたいですしね。

勿論、その是非について、住宅の門外漢である僕が、何かを断じることはできません。そもそも僕自体、「構造計算を経ていない建物」自体を一度も施工したことがありませんし、計画に参画さえしたことがないからです。

では何をここで伝えたいか、それは

じゃあ、構造計算された建物は絶対大丈夫なの?

これなんです。

僕もたくさん、鉄骨・RCの建物を施工してきました。全て構造計算を経て、皆役所の適合判定をうけた建物でした。が、これから示すような事例を見ると、決してそれが全てではないということがわかります。ひとつひとつ解説してみますね。

なお、書いている事例は実際の建物の事例に少し脚色しています。実際のものと変わっていますので、よくできたフィクションとして捉えてください。

1,スリット壁にとりつくRC階段

まずはこれ。いわゆるラーメン構造RCの12階建て。構造図を見るとほぼ全てのRC壁にスリット表記がありました。で、内部階段の周りの壁もスリット。。。ん?ちょっと待て。

これじゃあこのスパンの壁、構造設計と違って階段に拘束されちゃうやん???

構造担当者に問い合わせても、計算はそれで成り立ってるからいいんです。と。。。。いやスリットで計算しているってことは拘束しちゃだめよね。この部分が真っ先に壊れちゃうよね。階段壊れたら、避難できなくなるよね。って思って変更を申し出るも、「構造変更検討費を元請けさんが出してくれるなら変更します」。。。。呆然。。。

仕方ないのでこちらから検討費用を出して、スパンを拘束しないような鉄骨階段収まり(壁に定着させず、梁のみで支持する形)に変更してもらいました。勿論鉄骨に変えた費用と構造検討費を含めてコストアップ。他の梁柱の変更と抱き合わせでなんとかちょい赤字で収まりましたが、「計算でOKが出ている」建物でも、現実には危ないのもあるのです。

2,軽量化のためにブロック壁にするの?

次はこれ、これも10階建てぐらいの建物です。

図面を見ると機械置き場バルコニーがあり、立ち上がりに妙な表記が。。。特記がないので設計に問い合わせると「そこはブロックです。バルコニー躯体軽量化の為にそのようになってます」

は???バルコニーにブロック壁???

いやその下、人通る場所だし、地震来て倒れること考えたらあり得ないでしょ?さすがに。構造に聞くと

「立上がりまでRCにすると、キャンチスラブ持たないし、各階重くなると構造変更です」

唖然。。。

結論として、バルコニー躯体はPCaにして断面を絞り、両端だけRCにして真ん中は必要量だけパンチングパネルで軽量化して事なきを得ました。また費用はPC化することによって足場をシンプルにして仮設費用を低減し、Pca費用を捻出しました。

このように構造計算をしているから安全、とは言えない端的な例だと思います。

3,キャンチはもっと軽く

次はこれ。まずは梁とスラブの「模式図」を見てください。これはあえてわざと実物と寸法やバランスを変えています。また鉄筋もあえて書いていないので「あり得ない」と突っ込まないでくださいね。。あくまでイメージとして捉えてください。

こういう断面図が設計図(構造図)に書いてあった場合、そのまま施工したいですか?

僕はこれも全力で変更するよう要請しました。このスラブにはさらに積載荷重があったのですが、この収まりだと間違いなく梁にねじれが入り、またクリープでスラブが将来下がってくることは容易に想像できます。繰り返しますがこれも「構造計算」された建物です。

「先生、クリープ検討されてますか???ねじれた梁もひずみが出て壁や床が割れますよ。」と問い合わせるも、影響は軽微です。。。ってそんなわけないやんか。。。

またも呆然。

これに対しては、キャンチスラブとせず両端の柱からキャンチ梁を持ち出し、先端を小梁で繋ぐことで柱と内側の梁に応力が伝わるようにし、スラブは合成スラブとして150厚程度に低減して軽くしてもらい、全体のスラブ荷重を軽量化し、梁自体にねじれが生じないように変更してもらいました。

大切なのは構造計算と構造「設計」の両立

いかがですか?勿論こんな事例ばかりではなく、構造の先生がしっかり「設計」された建物は非常にシンプルでバランス良く配置されています。僕が駆け出しの頃担当した、ある有名な先生が設計した公共建物なんか、「え、これで持つんですか??」ってぐらい鉄骨部材が貧弱に見えたんです。もうその先生は亡くなられましたが、このようにおっしゃっていました。

「こうじやくん。建物というのは全体のバランスで成り立っているんだ。だからむやみに重くて強い部材を使ったって、決していい建物にはならないんだよ」と。

今でもその言葉は強く胸に残っています。

その建物は大空間で梁スラブが広く、支保工で支えた後で、強度発現後にジャッキダウンをする必要があったのですが、全体を少しづつジャッキダウンしていき、先生の計算したとおりの寸法でピタリとスラブのダウンが止まった時、言い様のない感動に震えたのを今でも覚えています。

法令上の緩和規定にあぐらをかいて、壁をバランスも考えずいい加減に配置するのも

構造計算ソフトを過信し、実際の建物がどう動くのかを想像せずに設計するのも

根は同じなんだと思います。

僕たち施工者には、構造設計について一ミリも決定権はありませんが、「これは?」と思った場合は徹底して構造設計者と議論する。助言する。その気持ちが必要なのだと思います。

だって、同じ「一級建築士」なんですからね。