とある方のツイートで、「建設業界は労災隠しが日常で、しかも申告すると元請けの圧力で仕事を干されてしまう」というものがありました。僕は、にわかには信じがたかったのですが、広い建設業界、僕の見ている世界とはきっと違う世界もあると思います。
一番僕が心配だったのは、
僕が知らないだけで、今現場にいる作業員さんも怪我して隠しているのでは?
という疑念でした。
一つ思うと考えるより行動が先に出る僕です。忙しいのをぬって(実際部下にそんな事所長がしないでくださいって怒られた)作業員さん一人一人に声をかけて、ひとりづづ聞いていったのです。
結論から先に言うと、事実として
今でも労災隠しはゼロじゃない。
ということです。順に事実ベースから書いていきましょう
聞いたのは全部で30人。全部で83人の作業員さんが来ていましたので、かなりの比率だと思います。質問内容は端的に2つです
「今まで建設業界で働いてきて、一度でも現場で医者に行くほどの怪我をし、それを申告せずに処理したことはありますか?」
「現場で怪我をしてそれを元請けに申告したとき、労災を使わない様に指示を受けたり、使った後に仕事を回さない等の圧力を受けたことがありますか?」
その結果、30人中2人の人が「申告しなかったときがある」と答え、残りの28人は「今までもないし、これからも恐らくない」という回答になりました。元請けの圧力については、30人全員が「そのような隠蔽を指示されたことは一度もない」という回答でした。
2人の内容を詳しく聞くと、
一人は「足場階段から足を踏み外して落ちた。足を少し捻挫して結構痛かったけれど、医者には行かなかったよ。恥ずかしくて。」とのことでした。
「何で申告しなかったの?」と聞くと、「普通に歩けたから大したことないと思ったし、その現場は監督さんがいない小さい現場(住宅らしい)だったので、そのまま帰っちゃった。今なら怒られちゃうよね。」
もう一人は「もうすぐ引き渡しの現場で、フロアコンセントが出っ張っているのに気づかずに小指をひっかけちゃった。爪が割れて血が出たけど、そのときは絆創膏で血が止まったのでそのまま帰った。でも後から腫れてきたんで医者に行って処置してもらったよ。骨とかは大丈夫だった。薬ですぐ直ったから申請はしなかったんだ」とのことでした。
同じく「何で申告しなかったの?」と聞くと、「他県の現場だったし、わざわざ言いに行くのも面倒だったから。たいした怪我じゃなかったし」
2人に「じゃあこの現場で今、同じ事が起こったらどうする?」って聞きましたが、二人とも口を揃えて、「いやいや、今は凄い申告しろって言われているし、大きな現場だと後から医者行ったのがわかるとかえって迷惑かけるって知ってるから、間違いなく言うと思うよ」とのことでした。
わかったのは、
「申請しないで隠れている事例は、やはりある」
ということ。しかしそれと同時に
「現場で怪我したら、今はちゃんと申請しないといけない」
という意識は共有されている。ということでした。2人とも経験は中堅の職人さんだったので、たまたま意識は高かったのかもしれません。また同時に、「怪我をすることは恥ずかしい」「たいした怪我じゃないのに申告がめんどくさい」と思う人もやはり一定数いるんだなあ。という事でした。
あと、28人に「隠したことなんてないです」と答えた作業員さんの意見を書いていくと。
- そもそも、医者に行くような怪我したことないし、隠す動機がないよ。
- 労災隠しは犯罪って教育はしょっちゅう聞いているので、自分がなったらすぐ申告するよ
- 最近は怪我しなくともレッカー事故とか申告させられるよね。大きいのは物損でも言うよ
という意見が大半でした。もう少し突っ込んで聞いてみたら
ちょっとすりむいたぐらいじゃ言わないかも。やっぱ申告は病院行くような怪我でしょ
のような意識の人もいました。
以上が、今回調査してみた内容でした。
僕の現場には、町場(小規模の住宅建築)に行っている人はほとんどいませんでしたし、設備系は数人しか聞けなかったので、電気、設備、クロス、左官などの多い場合はまた違った比率になるのかもしれません。
ただ、2人の事例を見ても、やっぱり「隠す」という行動は小規模現場や一人作業で「恥ずかしい」「面倒くさい」などの理由で発生してしまっていますから、そういう場面が多い町場の現場(周りに目撃する人がいない)では発生し易くなってしまうのだろうと思います。
もう一つの問題点、元請けからの圧力については全員が「全くない」ということを断言したので、やはり僕の周りではそういう圧力をかける事例はないのだろうと推測しています。勿論、実際に圧力を受けた人のツイートを「疑う」わけではありませんので誤解なきよう。
ただ、一人の作業員さんから、興味深い話を聞きました。
「監督さん、うちの社長が言ってたけど、実際建設業にはいろんな人がいる。いい加減な元請(所長)は安全もお金も段取りもいい加減。そして、そんな元請けとだらだら仕事する下請けも、やっぱりいい加減だって。だからそういう所ではしょっちゅう労災隠しもやってるんじゃないかなあ。うちの社長はそういうとことは距離をおいて頼まれても仕事しないって言ってたよ。」
それが真理なのか、は僕は確かめる術はありません。しかしそういう「労災隠しをしょっちゅう目にする」ような環境に、もし自分がいるのであれば、腕一本で仕事をしている職人であれば、勇気を持ってそこを離れるのも、自分を守る手段かもなあ。と思った次第です。
今回の調査で、「隠したくなる」マインドやシチュエーションが色々わかったのは大きな収穫でした。彼ら作業員が気持ちよく働け、いざという時は気軽に相談できるようになるよう、そしてうちの現場に「是非また来たい」と思ってもらえるよう、改善を続けるしかありませんね。
完璧な現場など、どこにもない。だからこそ日々改善していく。改めて気持ちを新たにすることができた調査でした。作業の手を止めて、ヒアリングに協力してくれた作業員さんに感謝を捧げて、調査結果の報告を終えたいと思います。