先日の飲み会で、「コンクリート打設で設備会社(サブコン)の社員が線持ちで手伝う」事が話題になり、設備系社員が意外にもその理由をよくわかっていませんでした。
twitter(X)でも、「なんでこんなことするんや」「設備の仕事と関係ない」と言う職人さんもいて、ああ、はっきり知られていないんだなあ。と初めて知りました。今日はそれについて話していきますね。
1,設備社員はスリーブとインサートの番人
まずは一番の役割です。型枠にはいろいろなものが取り付けられますが、その一番のものは「スリーブ」ですよね。コンクリート打設の際にはポンプからあの吐出力でコンクリートが吐き出されます。また、ポンプ筒先やバイブレーター欠け等多くの作業員さんが行き来しますので、スリーブが意図せずずれたり、変形したりしてしまいます。それを声がけで防ぎ、壊れた場合は待ってもらって正しくなおすのです。
次に、線を持つ役割は、設備には様々なインサートがあります。建築のインサートと違い、アンカー長の長いもの、特殊なものもあり、線に引っかけて倒れたりすることもあります。スリーブも線に引っかかる要因です。それを防ぐために「線持ち」という役割が与えらるようになりました。
そして、これがちゃんと行われていない時が多いのですが、CD管やスリーブが多くある位置などは、バイブレーターをよくかけてもらっているか見て、不十分なようなら「もう少しかけてください」とお願いしないといけないですし、梁のスリーブ等は「ここの下にスリーブありますから吐出量落としてください」とも声かけしないといけないのです。
僕はコンクリート打設前の検討会で、「設備職長は必ず必要なときは声かけをしてください」「コンクリート打設工は必ず設備職長の要請を聞いて慎重に打ってください」と話します。まだまだ意識の低い人もいて、早く打ちたいが為にガンガン打とうとする職長もいますからね。
2,良いコンクリートは踏む方が良い
コンクリートというのは、打ってそのままでは良いコンクリートになりません。必ず「タンピング」という作業でコンクリートをたたき、骨材を沈めて密実にする必要があります。昔のコンクリート打設はポンプがなく、ネコで運んで打っていたため、必然的にコンクリートを「踏む」過程が多かったのですが、今はほとんどなく、バイブレーターをかける人やポンプ屋さんしか「踏む人」がいなくなってしまいました。その為に、現在では左官屋さんが均しの前に「タンパー」でタンピングするだけしかタンピングのタイミングはなくなってしまったのです。コンクリートの供試体を作る時に、何度もつつきますよね。現場ではあれが「踏む」ことにあたります。その意味では「スラブの上でコンクリートを「踏む」人は多い方がいいんですね。
ですから、設備の人が線の制御をしながら、打設したコンクリートの上を歩いてスリーブの確認をしたりすることは、コンクリートにとって「いいこと」なのです。急いでコンクリートを打つよりも、しっかりと一つ一つ確認しながら進める。これが良いコンクリートを打つ秘訣なのです。これも、打設作業員が誤解している場合が多いので、「均しに邪魔にならない範囲で、コンクリートはできるだけ踏んでくださいね!」と周知することも多いです。
3,いざという時の救世主
コンクリート打設という作業は、「トラブル」がつきものです。事故を予見しているのに対策をしないのは論外として、万全と思っていてもコンクリートの流出や、転倒による事故が希におこります。その際に、設備系の人は大きな役割を果たします。
勿論、この部分は強制ではありません。上記2つと違って、契約をしたとしても明文化できない部分です。でも、有り難いんですよ、本当。
実をいうと私も、2度ほど型枠がばれたためにコンクリートを流出させ、途方にくれたときがあります。そのときは献身的に設備の職長さんが手伝ってくれました。人数が多く参加しているという事は、「いざという時に対応力がある」という事に他なりません。たとえコンクリート自体に触らなくても、連絡係や怪我をした人を運んだり、トラブルの際には一人でも手伝いが必要になるのです。
4,なんで設備工でなきゃダメなの?
ここまで話してきて、疑問に思った人はいますでしょうか。
「そんな仕事だったら、別に設備工じゃなくて土工さんでもいいじゃない?」って
そう、一面的に考えればそうです。スリーブを直すのに設備の技能や知識は要りません。コンクリートを踏むのもそうですし、緊急対応は本来の仕事ではありませんよね。
単純に「安くする」なら設備工より土工さんの方が安いです。設備からその業務を外してその分安く契約し、土工さんに「お前は今日は線持ちとスリーブ・インサートの監視をしろ」でいいはずです。なのにわざわざ設備工を合い判させる。それは
「付けたものに責任があり、そしてそれを司る知識があるから」なのです。
たかがスリーブ、されどスリーブ。スリーブ(勿論インサートも)って躯体を貫通する、建物を受け取るお客様にとってはものすごく重要なものなのです。それを責任感のない「言われたことをする人」に任せること。これがどれだけ軽率なことであるか。これを理解して欲しいのです。設備工は資格に合格し、様々な知識と責任感を持ったひとである。少なくとも僕は高く評価しています。
もし「なんでこんなことせなあかんねん」と思っている設備工の方。ただ線を持つだけの役割を「わざわざ資格者に任せる事の意味」を考えてください。それがわかれば、同じ線を持つのでも「動き方」が変わってきます。コンクリート打設は全員の共同作業。どこにも無駄はない。僕はそう思っています。少しでもその意識を持つ人が多くなれば良いですね。